ユヌピスターシュ

ピスタチオって究極の
寄り添い上手。
懐深く華やかな名脇役です

― ユヌピスターシュ

JAPAN
#02
OBVIOUS / UNE PISTACHE
TOKYO
2025.03.01
パティシエールの岩柳麻子氏
Interview
パティシエールの岩柳麻子氏
個性的で魅力溢れるニッチフレグランスが揃うブランド「オブヴィアス」。中には身近な食材が“香り”という新たな存在に形を変えて登場したものもあります。
ユヌピスターシュ」もその一つ。フランス語「ピスターシュ」は鮮やかな緑が印象的なナッツ、ピスタチオを意味します。「ユヌピスターシュ」はレバノンの定番デザート「ムハラビーエ」にインスピレーションを得て生み出された香りですが、中央アジア原産のピスタチオは今では世界中で生産されています。お酒のおつまみや料理にも使われますが、甘党の人にとってはなんといってもスイーツ食材として認められた存在ではないでしょうか。
「昔からピスタチオがとにかく好き。出来ることなら、あらゆるお菓子に使いたいくらい」と語るのは、東京・等々力で「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」を営むパティシエールの岩柳麻子さん。
「ピスタチオって、バレエに例えるならプリンシパルの女性を力強く支える相手方だと思うんです。どんな相手(食材)にも優しく寄り添って特別なものへと高めてくれる、そんな魔法のような力を持っているんです」といいます。美しい緑の粒が奏でるおいしい魅力について聞いてみました。

時間や季節を香りに感じる、
パティスリーの日常

 この仕事をしていると、必然的に香りにはとても敏感になります。それは私だけでなくスタッフもそうで、朝、フィナンシェを焼いていたスタッフが別の作業場に現れると「あ、朝のバターの香りだ」と皆が察しますし、クリスマス前になるといちごの下処理をするスタッフはもう身体中に甘酸っぱい匂いが染み付きます。その香りを感じると「あぁ、今年ももうそんな時期か」と思いますし、時間や季節を香りで識るだけでなく、単純に食材の旬の到来や賞味期限を過ぎた劣化などもそこから判断しています。嗅ぐ作業は仕事の一部であり、“クンクン”などと職場内通称(?)として呼んでいますが、とても重要な行為だと思っています。

 ならば食材の匂いに敏感でい続けるためにプライベートでは敢えて香りを避けているかというと、そんなこともありません。むしろ逆。自然を思わせる香りのシャワージェルやフレグランスは大好きですし、ちょっと気持ちをリフレッシュさせたい時やなんとなく気の滅入ることが続く時には、お線香を焚くこともあります。人生の瞬間の記憶も香りと結びついていることが多く、本当に不思議な存在だなと思いますね。

 そんな私ですが、最愛(と呼んでも良いと自認しています)の食材であるピスタチオに関しては、どこがいちばん好きかと問われたら香りももちろんそうですが、色、そして控えめなのに華やかさ溢れるキャラクターだと思っています。

ピスタチオは緑色だと考えている人が多いと思うのですが、私にとっては非常に多彩な色を持つ食材です。緑にしても、フレッシュで鮮やかな緑のものもあれば少し酸化が進むと黄土色っぽい褪せた表情を見せることも。個人的には、艶やかなグリーンのピスタチオにラベンダーっぽい紫色を帯びた薄皮がついたあの状態がたまらなく好きです。なぜあんなに美しい色合いが完成したのか。心から感動を覚えます。

ピスタチオはまるで、
力強く優しい男性のバレエダンサーのよう

 等々力に今のお店を開業して9年になりますが、その前は武蔵小山のお店で10年ほどお菓子を作っており、当時からすでにピスタチオ贔屓でした。ピスタチオも産地によって性格が異なるので、いろいろ使い分けたりして。それは今も変わりません。本心を言えば、一年中使っていたいくらいなんです。ただ、それだとパティスリーとしてどうなのかというのもあり、6月に出回り始めるさくらんぼに合わせるのと、クリスマスを迎えるあたりにいちごやフランボワーズと合わせるのと、季節ものはその程度にとどめています。これとは別に、開業当時からの定番であるピスタチオのケーキもあります。

 ピスタチオってバレエに例えるならフォローに徹する側の舞踊手だと思うんです、私。プリンシパルの女性が舞うのをグッと下から持ち上げてくれる、そんな「究極の寄り添い系」とでも申しましょうか。どんな食材と合わせても相手を確実に引き立て、高みに連れていってくれるんです。さくらんぼや桜桃、いちご、フランボワーズなどの酸っぱい果実とは最高のコンビネーションですが、いちじくやぶどうといった甘系のフルーツとも抜群に合います。チョコレートとの好相性はみなさんご存知の通りですし、ヘーゼルナッツやアーモンドなど、他のナッツともバシッと協調してくれる。こんなにも頼もしい食材って、他にあまりありません。

 数年前、山梨県の田園地帯にある小さな古民家を手に入れました。今はまだ手付かずの状態で細々と手入れを始めていますが、とても自然が豊かなところで。いつかこの家の周りにピスタチオの木を植えることができたら……と想像の中で楽しんでいます。まだまだ夢ですけど。

「ピスタチオショコラクレムー」は、ピーカンナッツ、ヘーゼルナッツ、アーモンドをキャラメルソースとともに忍ばせたチョコレートのケーキ。ピスタチオペーストを混ぜ込んだチョコレートクリームのたっぷりとした風味が極上。

「ヴェルピスターシュ」は、創業当時からの人気商品。ピスタチオのバタークリームに、フリーズドライのいちごやフランボワーズのコンフィチュールが層になって合わさり、ザクザク、とろーり、クリーミーな食感のリズムや味わいのアクセントが波のように押し寄せる贅沢な味わい。

PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI

Shop

PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI 
パティスリィ アサコ イワヤナギ
住所:東京都世田谷区等々力4丁目4-5
Tel:03 6432 3878
営:11:00〜18:00
休:月・火曜(祝日等によって変更の場合あり)
Web:https://shop.asakoiwayanagi.com/
Instagram:@patisserie.asakoiwayanagi
SAMA

プロフィール

岩柳麻子さん/東京都出身。桑沢デザイン研究所を卒業後は染織家として活動。独学でパティシエールに転身し、2005年「patisserie de bon coeur」(武蔵小山)を開業。その後2015年に等々力に場所を移して「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」をオープン。
Photo: SHINTARO OKI
Text: MAYUKO YAMAGUCHI